Sweet Home Chicago

Words & Music by Robert Johnson.
(1937年発表)



(原題直訳 「すてきな故郷、シカゴ」)*1




From Robert Johnson compilation,
"King of the Delta Blues Singers, Vol.2".
名作アルバム度 ☆☆☆☆☆

ロバート・ジョンソン






歌詞は、次のURLから
http://www.theonlineblues.com/robert-johnson-sweet-home-chicago-lyrics.html




名曲度 ☆☆☆☆☆





邦題 「スウィート・ホーム・シカゴ」 (ロバート・ジョンソン







Oh, baby, don't you want to go?
おゝ、ベイビー、おまえ、行きたくねえか?
Oh, baby, don't you want to go?
おゝ、ベイビー、おまえ、行きたかねえか?
Back to the land of California,
カリフォルニアのあの地に戻ってな
To my sweet home Chicago.
おれの懐かしい故郷のシカゴへ向かうんだ




Oh, baby, don't you want to go?
おゝ、ベイビー、おまえ、行きたかねえか?
Oh, baby, don't you want to go?
おゝ、ベイビー、おまえ、行きたかねえのか?
Back to the land of California,
カリフォルニアのあの地に戻って
To my sweet home Chicago.
おれの懐かしい故郷のシカゴへ行こうぜ




Now one and one is two,
さてと、1と1で2だ
Two and two is four,
2と2で4だな
I'm heavy loaded, baby,
おれはしんどいほどにもういっぱいだぜ、ベイビー
I'm booked I got to go.
おれには先約があるんだ
おれは行かなきゃなんねえのよ
Cryin', baby, honey,
泣けてくるぜ、ベイビー、とろけるようなあいつ
Don't you want to go?
おまえ、行きたかねえのか?
Back to the land of California,
カリフォルニアのあの地に戻って
To my sweet home Chicago.
おれの懐かしの故郷のシカゴへ向かうんだ




Now, two and two is four,
これで2と2で4だぜ
Four and two is six,
4と2で6だ
You gon' keep on monkeyin' 'round here
おまえは、この界隈でバカな真似でもしてるがいいさ
Friend-boy
ダチ公よ
You gon' get your business all in a trick,
おまえの商売なんてそ丸ごといかさまじゃねえか
But I'm cryin'
だが、おれは泣けてきてるんだ




Baby, honey, don't you want to go?
ベイビー、ハニー、おまえ、行きたかねえのか?
Back to the land of California,
カリフォルニアの地へ戻って
To my sweet home Chicago.
おれの懐かしの故郷シカゴへ向かうんだ




Now, six and two is eight,
これで6と2で8だぜ
Eight and two is ten,
8と2で10だ
Friend-boy she trick you one time,
ダチ公よ、あの女、一度おまえのことをハメてるよな
She sure gon' do it again
間違いなく、あのスケはまたやるぜ
But I'm cryin',
だけど、おれは泣いてるぜ
Hey, hey, baby, don't you want to go?
ヘイ、ヘイ、ベイビー、おまえ、行きたかねえのか?
To the land of California,
カリフォルニアの地へ向かい
To my sweet home Chicago.
おれの懐かしの故郷、シカゴへ行くんだ




I'm goin' to California
おれはカリフォルニアへ行くぜ
From there to Des Moines, Iowa,
あそこからアイオワのディモイン*2へ向かい
Somebody will tell me that you need my help someday,
いつか誰かがおれに言ってくるだろうよ
おまえがおれの助けを必要としてるとな
Cryin'
泣けるぜ
Hey, hey, baby, don't you want to go?
ヘイ、ヘイ、ベイビー、おまえ、行きたかねえのか?
Back to the land of California,
カリフォルニアの地へ戻り
To my sweet home Chicago.
懐かしのおれの故郷のシカゴへ行くんだ







Translated into Japanese tonight by komasafarina.訳詞






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まずは少しばかり映画的な手法を使って(この歌の中にある)(いくつかの層をなした)全体の流れというものを説明しておこう。映画的な手法とは、視覚的かつ時間的なものだ。


この歌の中の(「現在」というか)現在流れている時間は(歌の中に繰り返し登場する)例の足し算に視てとることができるだろう。



Now one and one is two,
Two and two is four,

さてと、1と1で2だ
2と2で4だな



もしくは、



Now, two and two is four,
Four and two is six,

これで2と2で4だぜ
4と2で6だ



さらには



Now, six and two is eight,
Eight and two is ten,

これで6と2で8だぜ
8と2で10だ




歌の進行とともに確実に増えている、つまり時間が流れていることが示されている。
しかし、増えているのは数字の総計、つまり和と片方の数字だけで、もう片方(のあとのほうの数字)は、1が2になったところでずっと2のまま変わることをやめ、定数と化している。しかし、片方は変数として増えつづけ、それによって両者の和が増加している。


これは何か!?


何のことはない、飲んだ酒のグラスの数なのだ。



Now one and one is two,
Two and two is four,

さてと、1杯と1杯で2杯だ
2杯と2杯で4杯だな



こうしてやがて



Now, six and two is eight,
Eight and two is ten,

これで6杯と2杯で8杯だぜ
8杯と2杯で10杯になる




そう、時間は流れているのだ。
そして、これがこの歌に流れている「現在」形の時間だ。
おそらくどこかの安酒場のカウンターだかテーブルだろう。
どこの町かはわからない。また、とくにどこの町である必要もないだろう。
シカゴでも、カリフォルニアでもないことは確かだ、
そう、シカゴとカリフォルニアから遠く離れていればいるほどいいだろう。
また、シカゴやカリフォルニアに比べて黒人にはハードな土地であるほど「遠く」が憧れの地として際立つという効果も上がるかもしれない。
だから、どこかアラバマあたりかテキサスの都市とでもしておこうか。
1930年代に黒人が出入りできるその安いバーだ。

飲んでいるのは(つまり、グラスの総数を増やしているのは)男の連れだろう。
歌の主人公の男の(互いに「friend-boy」と呼び合う)連れの男だ。
それにしても歌の主人公は、なぜ、ここまでその数を気にするのだろう。
酒の席でいちいち足し算をしてその数を気にしている。
これは簡単な話だ。
カネのことを気にしているのだ。
カネがないわけではない(だろう)、
(何らかの事情で)連れの男に酒を飲ませてやっているわけなのだから。
しかし、カネを使いたくはないのだ、なるべくなら。
なぜか?
理由は簡単だ




Back to the land of California,
To my sweet home Chicago.

カリフォルニアのあの地に戻って
おれの懐かしい故郷のシカゴへ向かうんだ




それにはカネがかかる、
たとえ酒の一杯でも(できるかぎり)払うカネは抑えておきたい、
これがその酒場にいる歌の主人公の「現在」の時間の流れにそった気がかりごと(つまりブルース)だ。

そして、話はここから「現在」(という知覚*3の(そして近くのw)領域を離れて「過去」という記憶の領域*4に移行する。
それは男の頭の中にある。

連れの男と酒場で飲んでいるこの歌の主人公の頭の中には、ひとりの女がいる。
過去の女*5だ。
それが(男の内面にある「現在」の最大の気がかり(つまり、ブルース)となっている。
男の頭の中はその「過去」ちゃんのことで頭がいっぱいだ。




I'm heavy loaded, baby,
おれはしんどいほどにもう頭の中がいっぱいなんだ、ベイビー




酒が飲めないのは、べつに節約しようとして我慢しているわけではない。
あるいは、すでに(きょうも)飲みすぎてしまっているのかもしれない。



I'm heavy loaded, baby,
おれは頭が重くなるほどしこたま飲んでるんだ、ベイビー




だから、歌の主人公のグラスは2杯で止まったままなのだろう。
頭の中にある彼の「過去」はカリフォルニアにあるらしいことは明白だ。




Back to the land of California,

カリフォルニアのあの地に戻るんだ




そして、それは過去であると同時に(これからのすぐそこにある)近い未来ということで現在の彼の頭の中に(つまりひとつの観念として)「現=在」しているのだ。それがこの歌の幾層かに重なったブルースのいちばん厚く重いものとなっている。
彼の現在はまず「カリフォルニアに戻る」という観念にある。そして、そのことで頭の中はいっぱいなのだ。



I'm booked I got to go.
Cryin', baby, honey,

おれには先約があるんだ、おれは行かなきゃならないんだ
泣けてくるぜ、ベイビー、とろけるようなあいつ





彼の現在がこんなふうにブルースなものになってしまっているのには、もちろん、それなりの理由があってのことだ。
彼と彼の過去のその女とのあるなにがしかの挿話を示唆するような言葉が、一緒に飲んでいる連れの男の口から語られる。




Friend-boy she trick you one time,
She sure gon' do it again

ダチ公よ、あの女、一度おまえのことをハメてるよな
間違いなく、あのスケはまたやるぜ




そう、そしてこの友人は彼のこれからを気遣っている。
手放しでは喜べないのだ。



Somebody will tell me that you need my help someday,

いつか誰かがおれに言ってくるだろうよ
おまえがおれの助けを必要としてるとな




そして、このセリフは(同時にまた)この歌の主人公のその「過去」から(いま、ようやくすぐそこまで来た)未来を見ている)この酒場での「現在」にいたるまでの(何年間だかの)間に(おそらくは)ことあるごとに彼の脳裡をとらえた(ほとんど強迫的なまでの)重い想い)としての観念)でもあったことと思う。




Somebody will tell me that you need my help someday,

いつの日か、おまえがこのおれの助けを必要としていると
誰かがおれのところに言ってくることだろう






別れた女が(いつかどこかでなんらかのかたちで)自分を必要とし求めてくれるだろうという(じぇ〜っつぁいにありえない)この想いこそが、また、ブルースなのだ。
ブルースという語り唄の世界は、(だが)かくも豊かなものなのだ。


順番が逆になってしまったが、彼がシカゴへ行こうと呼びかけているその女は、いま、現在、彼と一緒にいるのではなく、彼の過去を介した遠い記憶の世界(それは現実的には現在形のカリフォルニアの地に)いるのだ。
つまり、彼は自分の声の届かないところにいる女に呼びかけているのだ。





Oh, baby, don't you want to go?
Oh, baby, don't you want to go?
Back to the land of California,
To my sweet home Chicago.


おゝ、ベイビー、おまえ、行きたくねえのか?
おゝ、ベイビー、おまえ、行きたかねえのか?
カリフォルニアのあの地に戻って
おれの懐かしい故郷のシカゴへ向かうんだ





以上が、わたしがロバート・ジョンソンから直接、聞いたこの歌「スウィート・ホーム・シカゴ」の歌の世界だ。
嘘ではないよ、おれはこれを直接ロバート・ジョンソンから聞いたんだ。
酒場の話も彼が直接その声でおれの耳元で語ってくれた。
もちろん、CD盤をとおしてだけどもネw-inkin'




そして、この歌にはさらにより深い底流とも言うべき時間の流れの層がある。
それは(むしろ)「歴史」というべきもので、シカゴという都市をブルースの新世代のメッカとするようになった(南部から北部への)(あるいは農村から都市への)黒人労働力の移行(あるいは移動、流入)という現象なのだが*6、それについては、また、機会をあらためてどこかで何かの曲に触れて語ることになると思う。





※ これまでここで紹介したロバート・ジョンソンの歌



・「クロスロード・ブルース」 (ロバート・ジョンソン
・「ウォーキン・ブルース」 (ロバート・ジョンソン

(どちらも)
http://d.hatena.ne.jp/komasafarina/20050520








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【A Year Ago−Go!】



(1年前のエントリーを Playback♪)


すごいですね、
グレアム・ナッシュが、
おれの「シカゴ」の解説はどうなってるんだと催促してますヨ。
何だかただならぬものを感じますね*7
ハイ、明日、朝起きたらすぐにとりかかりまーす。



「プリズン・ソング」 (グレアム・ナッシュ)

http://d.hatena.ne.jp/komasafarina/20050502

*1:ロバート・ジョンソン自身はミシシッピー州ヘイズルハーストの生まれで、シカゴにもカリフォルニアにも行ったことがないとされている。

*2:アイダホの州都、カリフォルニアからディモインまで来れば、そこからお隣のイリノイ州のシカゴまではあとひとがんばりだ。

*3:そう彼の目がとらえるのは連れのグラスに注がれる酒の回数だ。

*4:それは知覚よりも近くはない、ひとつのイメージとしてとらえられる観念の世界でもある。

*5:カコちゃんだ、<いちいち註までつけて、つまんねえ駄洒落を飛ばしてんじゃねえッ! すまぬ。

*6:音楽史的には(いわゆる)「デルタ・ブルースからシカゴ・ブルースの誕生へ」という流れになるのだろうか。

*7:といっても、べつに超常現象的なことよりも、むしろギュスターヴ・フローベールやロラン・バルトの書いたものを読むときに感じるような言葉による世界の直接的な手触りというか感触というか、そういう、まさに、そう、ただならぬものなのです。