Pinball Wizard

Words & Music by Pete Townshend.
(1969年発表)





(原題直訳 「ピンボールの魔術師」)





From The Who album, "Tommy".
名作アルバム度 ☆☆☆☆


「トミー」 (フー)





歌詞は、次のURLから
http://www.oldielyrics.com/lyrics/the_who/pinball_wizard.html




名曲度 ☆☆☆☆☆





邦題 「ピンボールの魔術師」*1 (フー)







Local Lad:
地域の若者:



Ever since I was a young boy,
おいら、ガキの頃から
I've played the silver ball.
この銀のボールで遊んできたんだ
From Soho down to Brighton
ソーホーからブライトンのほうまで
I must have played them all.
おいらは
全部のマシンで遊んできたんじゃないだろうか
But I ain't seen nothing like him
けどよ、あいつみたいなのには
まったく会ったこともなかったね
In any amusement hall...
どこのゲーセンにもいなかった・・・・
That deaf dumb and blind kid
耳が聞こえず、口も利けず、目も見えない小僧がよ*2
Sure plays a mean pin ball !
ったく、ふざけたピンボールをしやがるんだ!




He stands like a statue,
あの野郎
銅像かなんかみたいにつっ立って
Becomes part of the machine.
マシンの一部になっちまうんだ
Feeling all the bumpers
バンパー*3全部を感じてるんだな
Always playing clean.
決まって見事にやってのけやがる
He plays by intuition,
あいつは直観でプレイしてるのさ
The digit counters fall.
デジタルのカウンターがいかれちまうぜ
That deaf dumb and blind kid
耳も聞こえず、口も利けず、目も見えないあのガキときたら
Sure plays a mean pin ball !
ホント、きったねえピンボールをしやがるぜ!




He's a pin ball wizard
ありゃ、ピンボールの魔術師だな
There has got to be a twist.
何か秘訣があるはずなんだ
A pin ball wizard,
ピンボールの魔術師だぜ
S'got such a supple wrist.
あんなに柔らかい手首をしてやがる




'How do you think he does it? '
「やつがどうやってやってるのか」だって?
I don't know!
おいらにはわかんねえよ!
What makes him so good?'
何であんなにすっげえんだろう?




He ain't got no distractions
あいつはよ、気が散るってことが全然ねえんだよ
Can't hear those buzzers and bells,
ブザーとかベルの音とかも聞こえてねえわけだからな
Don't see lights a flashin'
ライトの点滅だって見えてねえんだ
Plays by sense of smell.
嗅覚みたいのでプレイしてるんだな
Always has a replay,
いつも必ずリプレイをゲットして
'n' never tilts at all...
んで絶対にティルトにはならないんだ・・・・
That deaf dumb and blind kid
あの耳が聞こえず口も利けず目も見えないガキがよ
Sure plays a mean pin ball.
ったく、とんでもねえピンボールをしやがるんだ




I thought I was
おれは自分のことを
The Bally table king.
ボールゲーム機の王だと思ってきた
But I just handed
けどよ、おれは
My pin ball crown to him.
このおれのピンボール王の王冠を
やつにいま明け渡してやったぜ




Even my usual table
おれがいつもの馴染みの台でやっても
He can beat my best.
あいつはおれのベストのスコアを打ち負かせるんだ
His disciples lead him in
取り巻き連中に連れられて台につくと
And he just does the rest.
あとは全部自分でやる
He's got crazy flipper fingers
あの野郎、
とんでもねえフリッパー*4向きの指さばきをしやがって
Never seen him fall...
あいつがしくじるのなんて、一回も見たことねえぜ・・・・
That deaf dumb and blind kind
あの耳が聞こえず口も利けず目も見えないガキときたら
Sure plays a mean pin ball.!!!!!
ったく、すっさまじいピンボールをやりやがるぜ!!!!






Translated into Japanese tonight by komasafarina.訳詞






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ロック・オペラのアリア(!)としては最高傑作の部類に入るだろう、*5
「トミー」と言えば、この曲が思い浮かぶ(か、あるいは「see me, feel me」のくだりが口をついて出る)と言われるほど見事にこの「トミー」という作品を集約し、具現化している。

ピンボール機のケバいライトの点滅を表すかのようなイントロ、
そして、レバーを引いてボールを発射する鈍い音、
カシャカシャと音をたてながらボールが台を転がり
スコアがどんどん賑やかに増えていくさま・・・・など
ゲームが進む、そのテンポそのままに・・・・・
見事なまでにピンボールというゲームをサウンドとして描き出している演奏だ♪
すばらしい(よくできた)曲だと思う。



映画版の「トミー」では、この歌が歌われる場面は、多くの観衆の熱狂の中でエルトン・ジョン扮する(この歌の歌い手である)「地域の若者」にトミーが挑戦するピンボールのタイトルマッチめいた場面になっているが、オリジナルのこの歌からも十分にそういう光景(=シーン)は思い描ける。
(この対決で)王座を明け渡すことになるピンボールのチャンピオンから見たトミーのプレイと(呆れるというしかないような)トミーへの賞賛が歌われている。




He stands like a statue,
Becomes part of the machine.
Feeling all the bumpers
Always playing clean.
He plays by intuition,


あの野郎、銅像かなんかみたいにつっ立って
マシンの一部になっちまうんだ
バンパー全部を感じてるんだな
いつも決まって見事にやってのける
あれは直観でプレイしてるのさ




トミーは、おそらく気配を波動でキャッチしているのだろう。
それについては、昨日の「アンクル・アーニー」のくだりで述べておいたとおりだが、




He ain't got no distractions
Can't hear those buzzers and bells,
Don't see lights a flashin'
Plays by sense of smell.


あいつはよ、気が散るってことが全然ねえんだよ
ブザーとかベルの音とかも聞こえてねえわけだからな
ライトの点滅だって見えてねえんだ




ゲーム機の発する賑やかな音も会場の凄まじい喚声も、トミーの耳にはいっさい入らず、
彼は(たったひとり)実に奇妙な時間を過ごしている。
(そして、その奇妙な時間の中で彼はゲームに熱中(というよりも集中)しているのだ。
「クリスマス」という歌の中で(おそらく、プレゼントとして贈られたのだろう)初めて登場したこのピンボール・マシン、彼は自分の時間の多くをこのゲームをすることに費やしてきた。
つまり、このゲームを(かなりの時間)生きてきたのだ。全身全霊を(それに)集中することで。




His disciples lead him in
And he just does the rest.
He's got crazy flipper fingers
Never seen him fall...


取り巻き連中に連れられて台につくと
あとは全部自分でやる
あの野郎、とんでもねえフリッパー向きの指さばきをしやがって
あいつがしくじるのなんて、全然、見たことねえぜ・・・・




すでに彼には取り巻き(=「disciple」=弟子たち)までいるのがこのくだりで示されている。それだけ凄い "きったねえ" までの "とんでもない" 超絶技巧が人を引きつけるのだろう。


そもそもピンボールというゲームは、
まずはボールを落とさないことが前提として求められる
ゲームの舞台からボールを落としてしまわないようにボタンを押してレバーを操作し、
ボールをコントロールしていく、そうしてポイントを稼いでいく
基本的には、まず「持ち堪えるゲーム」だ(と言えるだろう)、すなわち持久型のゲームだ。
持ち堪えながら(より多くの)成果(=ポイント)を上げる。
そして、このゲームは他者との対戦型のゲームではない、
ゲームの相手が擬人化して設定されているわけでもない、
他者は(ゲームの結果)「成果」(=スコア)の向こう側に比較の対象としてあるのみで(その比較は)(これっぽっちも)必須のものでも何でもない。
要は、ボールを落とさないこと、ボールをできるだけ多くの回数、弾いて、できるだけいろんなところを通し、いろんなところに当てて、できるだけたくさんの穴に入れ、できるだけ長い時間、ボールにいろんなことを(経験)させる、そういうゲームなのだと(いま、こうして書きながら)思う。

そして、このボールは(マシンの台の傾斜にしたがって)まずは(宇宙の)重力にしたがうことからはじまって、徹底的に受動的な動きをする、
レバーに弾かれ、どこに転がるか、穴からは弾き出され、どこにいくのか、すべて徹底して受け身のかたちで進行していく。それはボールだけでなく、競技者にとっても(かなりの程度)受け身のゲームだ。

そして、トミーの人生もまた(ここまでは)基本的に受け身の姿勢で過ごされてきた。
両親に「見なかった、聞かなかった、言ってはならない」と言われ、それ以来、自分から自分以外への働きかけというものをいっさい断ってしまってきている。
それは「見えない、聞こえない、喋れない」ではなく、(実は)あくまでも「見ない、聞かない、喋らない」という(主体的な)ものなのだ。もちろん、「主体的」と言っても、それは(ある種の)否認の意志によるものではない。むしろ、(主体的な)「意志」というものをいっさい欠落させてしまっている、(自らの意志というものをどっかに落っことしてきてしまっている)というのがトミーだ。

つまり、これまでも「いとこのケヴィン」のサディスティックな虐待や「アーニー伯父さん」のペドフィリアックな性的虐待の事例(さらには「アシッドの女王」のプロの性愛の技)に見てきたように、トミーは(さながら)ピンボールのボールのように(受け身で)なすがまま、そして(つねにボールが重力にしたがい、ゲームの舞台から消えていこうとする方向に向かうように)(トミーのこころは)極端に内向的だ。


受け身で内向的、これがトミーという人間のモードだ。
(そして、もう一度、ピンボールというゲームマシンに戻ると)、
このゲームはきわめて自閉的(もしくは自慰的なゲームである)と言えるだろう(すでにこのゲームに他者性が欠落していることは述べたとおりだが)、レバーを引いてボールを打ち出すという(初めの)動作のみが唯一の能動的、積極的な行為であって、あとは(ほとんど)成り行き次第、持ち堪えよう(=stand!)という(抵抗の)意志だけが(このゲームの原動力)となっている。あとは重力と作用と反作用か・・・・・・




I thought I was
The Bally table king.
But I just handed
My pin ball crown to him.


おれは自分のことをこのボールゲーム機の王だと思ってきた
けどよ、おれは、このおれのピンボール王の王冠を
いまやつに明け渡してやったとこなんだ




そして、このピンボールの名手として喝采と賞賛を集めてきたトミーは、
ついには(この歌で)当代一の若者に打ち勝って、ピンボールのチャンピオンとしての名声に見舞われ、
やがては号外で彼の動向が報じられるまでの話題の人へとなっていく。

・・・しかし、だからと言って、トミーが何らかのかたちで幸せそうな顔をしたり、満ち足りたりた様子を見せるなど、いささかの歓びの感情を持つわけでもなく、あいかわらず外部に対しては自らを閉ざしたままであることには変わりない。



・・・・とここまで書いたところで、
トミーの父親だという人物の訪問を受けた。
明日、その少年を連れてこのわたしのところにやって来ると言う。
よかろう、直接、彼に会ってみるのも大いに興味深いこととなろう・・・・。

*1:きょうのこの名曲「ピンボールの魔術師」で、この「Something Celebration Is Going On」(略して「S.C.I.G.O」(「サイゴ」とか「サイゴー」)掲載の訳詞曲数が通算で500曲を数えることになりました。いつも決まって見てくれる人たち、みなさんがいるがいるおかげでこうしてつづいているのだと(いつも、つくづく)実感しています。その意味では、これもやはり一種の共同作業なのだと思います(これについては、このロック・オペラの終曲がうまく物語ってくれることでしょう)。これからもどうぞよろしく。

*2:もちろん、それぞれにズバッと差別用語を3連符で言ってのけてるわけです、「♪あの聾で唖で盲のガキがよォッ!」と。

*3:ゲーム台のボールの経路に沿って随所に張りめぐらされたり、設置されてあるゴムやプラスチックの帯状や筒状の緩衝具。ボールはそれに当たることで絶えず進む方向を変えていく。

*4:ボールを弾く羽根型(というよりも(字義的には)「ひれ」型)のレバー、両手許のボタンでこれを操作してボールの方向を変えるわけだが、同時にまたこの「フリッパー」は(ヨーロッパでは)「ピンボール」の異名になっている。フランスなどではこちらの方がとおりはいいのではないだろうか。

*5:オペラを観た観客が劇場を出た帰り道にそのアリアを口づさんでいなければ、そのオペラはうまくいったとはいえないということをどこかで聞いたか読んだかしたことがあるが、この曲はシングル・カットされて大西洋の両側で大ヒットとなった。