George Jackson


Words & Music by Bob Dylan.
(1970年発表)


(原題直訳 「ジョージ・ジャクソン」)



Performed by Bob Dylan.

Issued as a single, no albums are available.


歌詞は、次のURLから
http://bobdylan.com/songs/jackson.html




名曲度 ☆



邦題 「ジョージ・ジャクソン」 (ボブ・ディラン





I woke up this mornin',
今朝、目を覚ますと
There were tears in my bed.
わたしのベッドに涙があった
They killed a man I really loved
あいつらは
わたしが本当に愛していた人間を殺してしまった
Shot him through the head.
頭を撃ち抜いてだ
Lord, Lord,
主よ、主よ
They cut George Jackson down.
やつらは
ジョージ・ジャクソンを刈り取ったのだ
Lord, Lord,
主よ、主よ
They laid him in the ground.
彼らは地に彼をよこたえた



Sent him off to prison
彼を獄に送った
For a seventy-dollar robbery.
70ドルの窃盗で
Closed the door behind him
彼の背後でドアを閉じたのだ
And they threw away the key
そして彼らは鍵を投げ捨てた
Lord, Lord,
主よ、主よ
They cut George Jackson down.
彼らは
ジョージ・ジャクソンを刈り取ったのだ
Lord, Lord,
主よ、主よ
They laid him in the ground.
彼らは
地の(見えないところに)に彼ををよこたえた*1




He wouldn't take shit from no one
彼は誰からも欺かれることはなかった
He wouldn't bow down or kneel.
頭を下げたり、跪いたりもしなかった
Authorities, they hated him
体制当局の人間たちは彼を憎んだ
Because he was just too real.
なぜなら、
彼があまりにも本気、本物であったからだ
Lord, Lord,
主よ、主よ、
They cut George Jackson down.
彼らはジョージ・ジャクソンを刈り取った
Lord, Lord,
主よ、主よ
They laid him in the ground.
彼らは地に彼をよこたえた




Prison guards, they cursed him
監獄の番人どもは彼を苛んだ
As they watched him from above
彼を高みから見下しながら
But they were frightened of his power
だが、連中は彼の力に驚愕していたのだ
They were scared of his love.
彼の愛に脅えていたのだ
Lord, Lord,
主よ、主よ
So they cut George Jackson down.
だから、彼らはジョージ・ジャクソンを斃したのだ
Lord, Lord,
主よ、主よ
They laid him in the ground.
彼らは彼を地中によこたえた




Sometimes I think this whole world
ときどき、わたしは思うのだ
この世界全体が
Is one big prison yard.
ひとつの大きな監獄の構内なのだと
Some of us are prisoners
わたしたちのある者らは囚人であり
The rest of us are guards.
そうでない者らは看守である
Lord, Lord,
主よ、主よ
They cut George Jackson down.
彼らはジョージ・ジャクソンを刈り取った
Lord, Lord,
主よ、主よ
They laid him in the ground.
彼らは彼を地中に葬ったのだ



Translated into Japanese tonight by komasafarina.訳詞






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ジョージ・ジャクソンは、1942年の生まれ、カリフォルニア州サンクェンティン監獄で射殺されたときは29歳で、すでに11年間を獄で過ごし、監獄の処遇改善運動や黒人解放運動の重要なイデオローグのひとりとして全米にその名を知られる存在となっていた。
18歳のとき、友人とガソリン・スタンドから70ドルを盗んだ容疑で逮捕され、その容疑が逃走用の車の運転であったにもかかわらず、裁判で「禁固1年から終身まで」という厳しい(というかメチャクチャな)無期判決を受けてカリフォルニア州のソルダッド監獄に服役。主犯の青年が釈放後もジャクソンの刑が解かれることはなく、彼は獄中で膨大なの量の読書に励み、社会における刑罰の意味や監獄という施設についての透徹した認識を形成していく。
彼が服役して10年目の1970年1月、同じソルダッド監獄でブラック・パンサー党*2の創立当初からのメンバーのひとりであるW・H・ノーレン他3名の服役者が看守によって射殺されるという事件が起こり、数日後、モンタレー大陪審はその看守の行為を「正当化しうる暴力」(つまり正当防衛として)として無罪を言い渡した。獄ではこれに対する抗議行動が起こり、監獄側の対応ミスからこれが暴動となり、問題の看守が鉄格子に押し付けられて圧死。当局はその犯人として(先に殺害されたブラック・パンサーのW・H・ノーレンと親しかった)ジョージ・ジャクソン*3ら3名を「報復の意図を持った計画的な殺人」として獄内で逮捕した。こうした露骨な当局の策動には世界各国から抗議の声が上がり、やがてジャン・ジュネら世界的な文化人も名を連ねた釈放運動に発展していく。
そして、その夏、17歳になるジャクソンの実弟、ジョナサン・ジャクソンがマリン郡裁判所のある法廷にマシンガンを手に乱入、公判中の被告2名に拳銃を投げわたし、判事を人質に取り、兄のジョージら3人との人質交換を当局に要求するが、当然、容れられず、銃撃戦の末に射殺されるという事件が起きた。
当局は、まるでこれ幸いとするかのように、この事件の黒幕としてジョナサン・ジャクソンに銃器類を供与したとして殺人教唆と誘拐の共謀犯で元UCLA哲学科の助教授、アンジェラ・デイヴィスが逮捕される。アンジェラ・デイヴィスは、かねてから黒人解放運動の女性指導者としてFBIの危険人物リストに名を連ね*4、その何ヶ月かまえにも州当局*5から共産党員であることを理由にUCLAの助教授職を解任され、不当解雇の訴えを起こすなどして話題となっていた。
こうした動きの中でジャクソンの獄中書簡集が全米で刊行され大きな話題を呼ぶ。「Soledad Brother: Letters from Prison」(1970)だ*6。ジャクソンは獄内にいながらに全米の反体制運動のカリスマ的な存在となっていく。
そして、1971年8月21日、カリフォルニア州サンクエンティン監獄の中庭でジョージ・ジャクソンら3名の囚人が射殺される。当局は彼らが脱獄を企てたためと説明したが、これを信じる者はほとんど誰もいなかった。ディランが上の歌で歌っているように当局にとって目障りな存在を駆除すべく「刈り取られた」のだというのが大方の印象だった。
このカリフォルニアにおけるジャクソンの死は即座に全米に報じられ、翌日からニューヨークのアッティカ監獄でもこのジャクソン虐殺に抗議する囚人800人からがハンガー・ストライキを起こし、当局の厳しい対応から、これがくすぶりつづけ、やがて9月9日の大暴動となり、昨日紹介した「州立アッティカ」の囚人たちによる4日間にわたる監獄占拠となっていったのだった。

*1:on the ground でも under the ground でもなく、in the ground と歌われている

*2:黒人解放運動の前衛組織、「黒豹党」、1966年10月にヒューイ・P・ニューマンとボビー・シールによって全米各地のゲットーにおける黒人の自助自警組織として創設された。他に有名な活動家の名前として、エルドリッジ・クリーバー(評論集「氷の上の魂」Soul On Ice は全米でベストセラーになった力強く美しい名著!!)、ストークリー・カーマイケル、フレッド・ハンプトン、フレッド・ハンプトン、ルーファス・ウォールズ、ボビー・ラッシュ、ジュウェル・クックを挙げることができるだろう。当初は、貧しい子供のための朝食サービスや無料健康診断を中心に地域の黒人の政治教育と黒人の子供たちや若者が犯罪や麻薬に手を染めることを防止する治安管理を活動の軸とした。これが結果的に黒人居住区における警察当局の人権に反する行動や違法活動の監視となり、やがて当局との対決姿勢を鮮明にしていくことになる。当初の黒いベレーや黒のレザージャケットといったユニフォームなど、のちの「ガーディンアン・エンジェル」がこの「ブラック・パンサー」をひとつのモデルとしていることは明らかだろう。

*3:ジャクソン自身、1969年からブラック・パンサー党の党員になっていた

*4:ジョン・レノンもまた当時FBIの監視下におかれていたことは有名。FBIのファイルの閲覧も可能である。ttp://foia.fbi.gov/foiaindex/lennon.htm

*5:当時の州知事はのちに合衆国大統領となるロナルド・レーガン

*6:当時、日本でも草思社から「ソルダッド・ブラザー 獄中からの手紙」(絶版)というタイトルで翻訳が刊行されているhttp://www.soshisha.com/booklist/jiken.htm