Muswell Hillbilly


Words & Music by Raymond Douglas Davies.
(1971年発表)



(原題直訳 「マズウェル・ヒルビリー」)*1



From The Kinks album, "Muswell Hillbillies"
名作アルバム度 ☆☆☆☆☆

「マズウェル・ヒルビリーズ」 (キンクス





歌詞は、次のURLから
http://hobbes.it.rit.edu/


名曲度 ☆☆



邦題 「マズウェル・ヒルビリー」 (キンクス







Well I said goodbye to Rosie Rooke this morning,
そう、おれは今朝ロージー・ルークにさよならを言った
I'm gonna miss her bloodshot alcoholic eyes,
あいつのあの酒浸りの充血した目ともこれでおさらばだな
She wore her Sunday hat so she'd impress me,
あいつがサンデーハットなんかかぶってたもんだから
やけにそれがおれの心に残ったよ
I'm gonna carry her memory 'til the day I die.
あいつの思い出は、死ぬまで消えることはないだろう




They'll move me up to Muswell Hill tomorrow,
当局のおかげで
おれは明日立ち退いてマズウェル・ヒルに移るんだ
Photographs and souvenirs are all I've got,
ぼくの手に残ったのは写真とか思い出とかだけ
They're gonna try and make me change my way of living,
あいつらは
おれのこの生き方まで変える気でいやがるんだ
But they'll never make me something that I'm not.
けどよ、このおれをおれじゃないものにしようなんて
絶対にあいつらにはできやしねえって




Cos I'm a Muswell Hillbilly boy,
だって、
おれはマズウェル・ヒルビリー・ボーイだからな
But my heart lies in old West Virginia,
だけど、おれの心は懐かしのウェスト・ヴァージニアにあるんだ
Never seen New Orleans, Oklahoma, Tennessee,
一度も見たことがないんだよ、
ニューオーリンズオクラホマテネシー
Still I dream of the Black Hills that I ain't never seen.
それでも、
おれはまるで目にしたこともないブラック・ヒルズを夢見てるんだ




They're putting us in little boxes,
あいつらは、
おれたちをちっぽけな箱の中に押し込めようとしているんだ*2
No character just uniformity,
特徴も何もない、ただの画一化
They're trying to build a computerised community,
あいつらがやろうとしてるのは、
コンピュータ化した地域社会の建設だ
But they'll never make a zombie out of me.
けどよ、あいつら、どうしたって
このおれを腑抜けの亡霊みたいにゃできやしねえぞ




They'll try and make me study elocution,
やつらは
おれに喋り方を勉強しろという
Because they say my accent isn't right,
あいつらに言わせると
このおれのアクセントは正しくないんだそうだ
They can clear the slums as part of their solution,
やつらは、てめえらのプランに従った解決の一端として
スラムを一掃することはできるかもしれないが
But they're never gonna kill my cockney pride.
けどよ、やつらに
おれのコックニー*3のプライドはなくせやしねえぜ




Cos I'm a Muswell Hillbilly boy,
なにしろ、おれはマズウェル・ヒルビリー・ボーイだからな
But my heart lies in old West Virginia,
だけど、おれの心は懐かしのウェスト・ヴァージニアにあるんだ
Never seen New Orleans, Oklahoma, Tennessee,
ニューオーリンズオクラホマテネシー
一度も目にしたことはないんだけど
Still I dream of the Black Hills that I ain't never seen.
それでも、おれは見たこともないブラック・ヒルズを夢見てるんだ




Well I'm a Muswell Hillbilly boy,
そうさ、
おれはマズウェル・ヒルビリー・ボーイだ
But my heart lies in Old West Virginia,
だけど、
おれのハートは懐かしのウェスト・ヴァージニアによこたわっている
Though my hills, they're not green,
おれのとこの丘は緑じゃないないけど
I've seen them in my dreams,
夢の中ではおれにも見えるんだ
Take me back to those Black Hills,
あのブラック・ヒルズにおれを連れ戻してくれ
That I ain't never seen.
まだ見たこともないあの場所へ






Translated into Japanese tonight by komasafarina.訳詞







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ヒルビリー」というのは、もともとはアメリカの山岳地帯の僻地の人々を指す(アメリカの)言葉だが、「ロックンロール」という(そもそもが)ハイブリッドな音楽のルーツのひとつになっている(ヨーロッパ起源の)アメリカのマウンテン・ミュージックの通称にもなっている。そのヒルビリーにロンドン北部のマズウェル・ヒルというとりたててどうということもない一角*4の地名を掛け合わせたのがこの歌のタイトルで、これはアメリカの1950年代の人気TVコメディーで(日本でも「じゃじゃ馬億万長者」という題名で放映され)1990年代になって映画化もされた「ビバリーヒルビリーズ」に倣ったものだ。

キンクスは、この曲がアルバム・タイトルになっている「マズウェル・ヒルビリーズ」というアルバムで、バンドごと「マズウェル・ヒルビリー・ボーイズ」というロンドンの場末の架空のカントリー&ウェスタン・バンド*5に扮するかたちで、従来のキンクスサウンドとは違うカントリー色の強いノスタルジックな粗いサウンドを基調にアルバム全編を作り上げているが、(アメリカのカントリー・ミュージックといえば、ファンもミュージシャンも関係者も大半が保守的、守旧的かつ愛国的で教育がなく頭の固いという(世界的に流通した記号的なイメージを巧みに考慮に入れた上で)(それをアルバムのベーシックなキャラクターとするコンセプトで)当時、イギリスで顕在化しはじめてきた「ポスト・モダン」化の進行の前兆(萌芽というべきか)に対する嫌悪や不安や病理や恐怖と無力な抵抗、さらにそこから落ちこぼれていく人々の姿をスケッチするような歌を全編にわたって収録している。



この歌でも背広にネクタイに眼鏡といった当局の連中*6に対して(ヒルビリー・ミュージックやアメリカ映画を通じて)(イメージだけで知っている)アメリカ南部の旧弊で保守的な頑固な人間を気取ってみせている。

しかし、歌の主人公が無媒介的に自分の心を「(まだ見ぬ)懐かしのヴァージニア」に預けているのとは裏腹に、レイ・デイヴィスは、そのあたりをあくまでもひとつの概念として扱い、これを上手に操作してアルバムのコンセプトに援用している。彼の音楽には直接的なカントリー・ミュージックの影響はないし、彼自身、べつにカントリーに対する嗜好の持ち主でもない。そのあたりはレイ・デイヴィスの「作家」性というべきものかもしれない。あるいは(「ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク」による)ザ・バンドの出現がエリック・クラプトンをはじめとするイギリスの多くのミュージシャンに与えた衝撃のその最後の(もっとも弱まった)余波がようやくキンクスにまで及んだと言ってみることも少しは気の利いたセリフになるのかもしれない。*7



次に紹介するのは、このアルバムの冒頭に収められた曲・・・・・・・。

*1:ロンドン北部の町マズウェルヒルアメリカのヒルビリー・ミュージックからなるレイ・デイヴィスの造語。

*2:当時、市の住宅計画で北ロンドンにいくつか建設されてた日本で言う鉄筋コンクリートの高層集合住宅

*3:「ロンドンっ子」のこと。こちとら江戸っ子でえって感じで

*4:ただし、キンクスの中心メンバーであるレイとデイヴのデイヴィス兄弟はそのあたりの出身、東京で言えば練馬区といったところだろうか。

*5:イギリス人のカントリー&ウェスタン・バンドというのは、日本人や中国人のカントリー&ウェスタン・バンドと同じぐらい不可解で滑稽なイメージの存在であったことだろう、まあ、当時の基準からしてということですけども。最近ではフランス人のお相撲さんもけっして滑稽なイメージではないですからネ。世界は変動している!

*6:彼らは(歌の中では)ただ「They」とされているだけだ。ここにもイギリス社会固有の「オレたちとヤツら」Us and Them という図式が貫徹している

*7:たしかに昔のミュージシャンというのは、ある時期までは、その時代ごとの流行のサウンドをわりとしっかり取り入れながら生きのびてきたのが、けっこうハッキリとそのディスコグラフィーにうかがうことができるものだ。ヒット・チャートというのがひとつの「センター」を形成していたことにもよるのだろう。