Lady Jane


Words & Music by Mick Jagger and Keith Richards.
(1966年発表)




(原題直訳 「貴婦人ジェーン」)




From The Rolling Stones album, "Aftermath".
名作アルバム度 ☆☆☆

アフターマス」 (ローリング・ストーンズ



Also on their live album, "Got Live If You Want It".
名作アルバム度 ☆☆☆☆☆

「ガット・ライヴ・イフ・ユウ・ウォント・イット」
ローリング・ストーンズ



歌詞は、次のURLから
http://www.keno.org/stones_lyrics/ladyjane.html




名曲度 ☆☆☆




邦題 「レディ・ジェーン」 (ローリング・ストーンズ






My sweet Lady Jane
わが心優しき貴婦人なるジェーンよ
When I see you again
貴女に再びまみえるときには
Your servant am I
わたしは貴女の下僕なり
And will humbly remain
そして、
卑しくもそのままでいよう




Just heed this plea my love
恋人よ、
このわが思いを心に留め置きたまえ
On bended knees my love
恋人よ、ひざまずいて
I pledge myself to Lady Jane
わたしはこの身を
貴婦人ジェーンに捧げよう




My dear Lady Anne
わが親愛なる貴婦人のアンよ
I've done what I can
わたしはできることはやってみた
I must take my leave
わたしはきみのもとを去らねばならない
For promised I am
わたしは約束してしまったのだ
This play is run my love
愛する者よ、
この芝居も幕切れだ
Your time has come my love
おまえの出番もおしまいだ、愛する者よ
I've pledged my troth to Lady Jane
わが誠を
わたしは貴婦人ジェーンに誓ったのだ




Oh my sweet Marie
あゝ、わたしの可愛いマリー*1
I wait at your ease
おまえの心が安らぐのを待つとしよう
The sands have run out
時という砂粒はもう絶えてしまったのだ
For your lady and me
おまえのあの貴婦人*2とわたしにとっては




Wedlock is nigh my love
愛する者よ、婚礼の日が近い
Her station's right my love
高貴なる身分の女なのだ、愛する者よ
Life is secure with Lady Jane
レディ・ジェーンといれば生活は安泰だ





Translated into Japanese tonight by komasafarina.訳詞





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真面目な顔して言わなければ意味がない冗談というのがある。
この歌「レディ・ジェーン」もそんな歌のひとつだ。
「レディ」というのはイギリスの貴族階級の女性に対する敬称だが、英国史にいささかなりとも通じた人なら(あるいはヨーロッパのコスチュームプレイ物の映画が好きな人なら*3)、この歌に登場する女性たちが、有名なヘンリー8世の2人目の妃となった「1000日のアン」の異名で知られる悲劇の王妃アン・ボリーン*4と3人目の王妃であるジェーン・シーモア*5、そして最初の王妃カスリン*6との間の王女であるメアリー*7であることはすぐにわかることだろう。
であれば、ミック・ジャガー扮するこの歌の歌い手である主人公の男は(当然)国王ヘンリー8世ということになる。そこにこの歌のジョークがある。


この「レディ・ジェーン」が発表されるまで、ミック・ジャガー(とローリングストーンズ)といえば、当時のイギリス社会で鬼っ子的なイコンを演じていた。レコード・デビューの際には「きみはこんな薄汚いヤツらと自分の妹をデートさせられるか?」といった見出しで報道されたストーンズだが、かれら自身にしても、まだ映画化される以前のアンソニー・バージェスの「時計仕掛けのオレンジ」をモデルにしたワルのイメージを作っていたし*8、ヒットしたレコードで歌っていたのは「満足できねえ、気にくわねえ」*9「さっさと失せやがれってんだ」*10「言っとくけど、これが最後だからな、おれは知らねえぞ」*11「ホラ、またオマエの神経衰弱がはじまったぜ」*12「黒く塗りつぶせ!」*13などと刺激的な挑発的な言辞を弄してきた。
そのローリングストーンズが真面目な顔して、中世ルネッサンス風の厳かで品のある旋律に乗せて、チョーサーか何かのような古めかしい英語を引っ張り出してきて(それこそ)「擬古典調」に歌ってみせるのだ。


イギリス人なら、これを聴けば、誰でも当然ヘンリー8世を思い浮かべてしまう。「おゝ、1000日のアンだ」、「アンの刑死後10日で結婚したジェーン・シーモアだ」だと・・・・。そして、思うのだ、「また何でローリングストーンズがこんな静かでいい曲を歌を歌うのだ?」「あの喧しいエレキ・ギターやドラムやベースはどうしたのだ?」というわけだ。
そして、ミックも切々と真情あふれる面持ちでこれを歌う。(それだけでもひとつのジョークなのだが)


ところがどっこい、最後のくだりである・・・・・・



Life is secure with Lady Jane
レディ・ジェーンといれば生活は安泰だ



明らかにこれは国王の言葉ではない。そう、これはジゴロのセリフなのだ。
ストーンズが歌っているのは、明らかに(自分たちよりも)上の階級の女をモノにしたぜということだ。
レディ・ジェーンにしろ、レディ・アンにしろ、それは必ずしも16世紀チューダー王朝の歴史上の人物であることもなく、現代のアッパー・クラスの令嬢たちや未亡人のレディ・ジェーンであり、レディ・アンであってもかまわないのだ。イヤ、そうでなければ、「これで生活も保証されたぜ」という決めのラインが生きてこない。最後の一節でミック・ジャガーは大逆転してほくそ笑むのだ。この最後のオチでニカッといたずらっぽく笑う(当時まだ26歳だかの)ミック・ジャガーの顔が目に浮かぶのだ*14


実際、次の歌はもっとあからさまに上のクラスの女(ヤツらの女)を手玉に取るワーキングクラスの(それも)少々危険な匂いのする男の歌だ。

*1:にちにイングランドの最初の正規の女王となったメアリー1世、厳格なカトリックで300人近いプロテスタントの指導者を処刑して「血まみれメアリー」と呼ばれた

*2:「おまえの母親のあの貴婦人」、最初の王妃カスリン Catherine of Aragon 、そもそもはヘンリーの夭折した兄アーサーの夫人だった

*3:例えば、映画「1000日のアン」http://movie.goo.ne.jp/movies/PMVWKPD5171/story.html 

*4: Ann Boleyn、王妃となるがのちに斬首される。彼女が生んだ王女が、のちのエリザベスI世となる

*5: Jane Seymour、 のちにエドワード6世となる男児を産んですぐに逝去。彼女こそがこの歌の「レディ・ジェーン」である。兄らのクーデターにかつがれて「9日女王」として知られ「レディ・ジェーン・グレイ」(メアリー1世に処刑された)と間違えないように。 ・日本語WikiPedia http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%BC%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%83%A2%E3%82%A2

*6:キャサリン

*7:後に「ブラディ・マリー」の異名をとった女王メアリーI世

*8:2枚目だか3枚目のアルバムのアンドルー・ルーグ・オールダムのライナー・ノーツが「オレンジ」のあの独特の英語で書かれていた

*9:「サティスファクション」

*10:「1人ぼっちの世界」

*11:「ザ・ラスト・タイム」

*12:「19回目の神経衰弱」

*13:「黒く塗れ!」

*14:ところで、当時のミック・ジャガーの実生活の恋人が、マリアンヌ・フェイスフルだったことを考えると、「Sweet Marie」に彼女の姿がダブってもくるのだが・・・