Sally Simpson

Words & Music by Pete Townshend.
(1969年発表)





(原題直訳 「サリー・シンプソン」(人名))





From The Who album, "Tommy".
名作アルバム度 ☆☆☆☆


「トミー」 (フー)





歌詞は、次のURLから
http://www.oldielyrics.com/lyrics/the_who/sally_simpson.html



名曲度 ☆





邦題 「サリー・シンプソン」 (フー)






Outside the house Mr.Simpson announced
That Sally couldn't go to the meeting.
家の外でシンプソンさんは
サリーを集会に行かすわけにはいかないと
言い放ち
He went on cleaning his blue Rolls Royce
そのまま青いロールスロイスの洗車をつづけた
And she ran inside weeping.
サリーは泣きながら家の中に駆け込んで
She got to her room
自分の部屋に入ると
And tears splashed the picture of the new Messiah.
涙が新たなる救世主の写真の上に飛び散った
She picked up a book of her fathers life
彼女は自分の父親の半生を書いた書物を拾い上げると
And threw it on the fire!
それを暖炉の中に投げ込んでしまった!




She knew from the start
はじめから彼女にはわかっていたんだ
Deep down in her heart
心の奥の深いところで
That she and Tommy were worlds apart,
自分とトミーは世界が違うのだと
But her Mother said never mind your part...
でも、彼女の母親はこう言った
気に病むことはないわ・・・
Is to be what you'll be.
どうなるにせよ、それがあなたの役回りなのよ




The theme of the sermon was come unto me,
講話のテーマは
わたしのもとへ来たれ
Love will find a way,
愛こそが道を見い出すだろう、というものだった
So Sally decided to ignore her dad,
そこでサリーは父親を無視して
And sneak out anyway!
とにかく、こっそり脱け出すことにした!
She spent all afternoon getting ready,
午後の間をずっと準備に費やし
And decided she'd try to touch him,
あの人に触わりにいこうと心に決めた
Maybe he'd see that she was free
もしかすると彼女が暇なのがわかって
And talk to her this Sunday.
この日曜日にでも
じかに話をしてもらえるかもしれない




She knew from the start
はじめから彼女にはわかっていたんだ
Deep down in her heart
心の奥の深いところで
That she and Tommy were worlds apart,
自分とトミーは世界が違うのだと
But her Mother said never mind your part...
でも、彼女の母親はこう言った
気に病むことはないわ・・・
Is to be what you'll be.
どうなるにせよ、それがあなたの役回りなのよ




She arrived at six
彼女が到着したのは6時のことで、
And the place was swinging o gospel music by nine.
9時には会場は福音の調べで沸き返っていた
Group after group appeared on the stage
ステージには次々にグループが登場し
And Sally just sat there crying.
サリーはそこにすわってひたすら叫んでいた
She bit her nails looking pretty as a picture
爪を噛む彼女は、まるで何かの絵のようにきれいだった
Right in the very front row
席はしっかり最前列
And then a DJ wearing a blazer with a badge
やがてバッジのついたブレザーを着たDJが
Ran on and said 'here we go!'
壇上に駆け上がり、言ったのだ
「さあ、みんな、いよいよだぞ!」




The crowd went crazy
聴衆は凄まじいまでに熱狂し
As Tommy hit the stage!
トミーがステージに登場した!
Little Sally got lost as the police bossed
小さなサリーは警官隊の仕切りに押し負け
The crowd back in a rage!
聴衆は押し戻されて荒れ狂った!




But soon the atmosphere was cooler
だが、ほどなくして事態は鎮まり
As Tommy gave a lesson.
トミーの講話がはじまった
Sally just had to let him know she loved him
サリーは彼のことを愛しているのを
とにかくわかってもらわずにはいられず
And leapt up on the rostrum!
演壇に向かって駆け上がった!
She ran cross stage to the spotlit figure
彼女はスポットライトの中の人物めがけてステージの上を走り
And touched him on the face
彼のその顔に手を触れた
Tommy whirled around as a uniformed man,
トミーは背を向けて身をかわすと、制服姿の男たちが
Threw her of the stage.
彼女をステージから放り投げた




She knew from the start
はじめから彼女にはわかっていたんだ
Deep down in her heart
心の奥の深いところで
That she and Tommy were worlds apart,
自分とトミーは世界が違うのだと
But her Mother said never mind your part...
でも、彼女の母親はこう言った
気に病むことはないわ・・・
Is to be what you'll be.
どうなるにせよ、それがあなたの役回りなのよ




Her cheek hit a chair and blood trickled down,
彼女は椅子に頬を打ちつけ、流れ出る血が
Mingling with her tears,
涙とまじりあった
Tommy carried on preaching
トミーは講話をつづけ
And his voice filled Sally's ear
その声がサリーの耳をいっぱいにした
She caught his eye she had to try
自分を見るあの人の視線を感じて
彼女も目を向けようとしたが
But couldn't see through the lights
しかし、光が眩しくてよく見えなかった
Her face was gashed
顔には深い裂き傷ができ
And the ambulance men had to carry her out that night.
その夜、彼女は救急隊員によって会場から運び出された




The crowd went crazy
聴衆は凄まじいまでに熱狂し
As Tommy left the stage!
トミーがステージをあとにした!
Little Sally was lost for the price of a touch
可愛いサリーは彼に触れたその代償として大きなものを失った
And a gash across her face!
顔じゅうにひどい裂傷を負ったのだ!
OOoooh.
おゝゝゝ




Sixteen stitches put her right
16針を縫う傷跡が彼女の顔にできると
And her Dad said 'don't say I didn't warn yer'.
父親は「だから、言わないことじゃないだろ」と言った
Sally got married to a rock musician she met in California
その後、サリーは
カリフォルニアで会ったロック・ミュージシャンと結婚し
Tommy always talks about the day
The disciples all went wild!
トミーは、いまでもしょっちゅう
弟子たちが荒れ狂ったように熱狂したあの日のことを
語っている
Sally still carries a scar on her cheek
サリーの頬にはいまでもあの傷痕が残っていて
To remind her of his smile.
彼女は彼の笑顔を思い出すのだった




She knew from the start
はじめから彼女にはわかっていたんだ
Deep down in her heart
心の奥の深いところで
That she and Tommy were worlds apart,
自分とトミーは世界が違うのだと
But her Mother said never mind your part...
でも、彼女の母親はこう言った
気に病むことはないわ・・・
Is to be what you'll be.
どうなるにせよ、それがあなたの役回りなのよ






Translated into Japanese tonight by komasafarina.訳詞







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いささか唐突ではるが、これが(文字どおり)「挿=話」というものなのだろう。
自己を解き放った後のトミー、
魂の指導者として(文字どおり)アイドル(=偶像)と化したトミーをよく物語るサリー・シンプソンのエピソードである。

彼女がアメリカ人かイギリス人なのかはっきりとはわからないが
ロールスロイス」をキーワードにイギリス人だとしてみよう。
おそらく彼女の父親のシンプソン氏は貴族階級の人間ではないだろう。
ひとつに彼が(趣味かもしれないが)自分でロールスロイスの洗車をしていること、おそらく、(使用人にまかせるよりも)自分が手に入れたロールスロイスが嬉しくてたまらないのだろう。
次に彼の人生を書いた本が出ているということ、これはかりに貴族階級の人間であれば、名前だけでどこの誰とわかり、その人物についての本はそうは出るものではない。
ということから、このシンプソン氏は一代で事業に成功し(て一躍、時の人にでもなっ)たブルジョワ(=平民)なのだろう。(とわたしは勝手に決め込んでいるが)*1
そんな(資本主義の規範(=ゲームの規則)にしっかりとしたがった平民階級、すなわち)ブルジョワ家庭の常識に照らし会わせるならば、年若い娘をどこか遠くで開かれる怪しげな新興宗教まがいの集会に行かせるわけにはいかないのだ。




Outside the house Mr.Simpson announced
That Sally couldn't go to the meeting.


家の外でシンプソンさんは
サリーを集会に行かすわけにはいかないと
言い放ち




これは1950年代のロックンロールがアメリカで大流行したときに娘がロックンロールのショーに行くことを嫌った親の言い回しを踏襲したものだ。例えば、チャック・ベリーの名曲「スイート・リトル・シックスティーン」(!)
http://d.hatena.ne.jp/komasafarina/20060408




Oh, Mammy, Mammy,
Please may I go?
It's such a sight to see
Somebody steal the show
Oh, Daddy, Daddy,
I beg of you
To whisper Mammy


ねえ、ママ、ママ
お願い、行っていいでしょッ?
すっごいのよ、見たいのよ
誰かすっごい人が出て来るはずなの
ねえ、パパ、パパ
お願いだから
ママにそっと言ってあげて




このパパとママのコンビ・プレーについてなら、ロックンロールにはいくらでも例を挙げることができるだろう。
また、「サリー・シンプソン」というこのお嬢さんの登場にロックンロールの教養のある人なら、やはりチャック・ベリーの名曲「スウィート・リトル・ロックンローラー」が(チラリとでも)思い浮かぶだろう。



She's a daughter of well-respected man
Who taught her how to judge and understand
Since she became a rock and roll music fan.


あの子はご立派なお人のお嬢さまで
物事の判断や理解についてはしっかりと叩き込まれている
あの子がロックンロール音楽のファンになってからというものは




ロック・オペラというのは、単にあるひとつの物語をロックにした歌で綴ればよいというものではない、そこに単に音楽ジャンルとしてのロック以上にどこかでロックやロックンロールに対する何らかの(次元での)結びつき、あるいはリファレンス(=言及としておこうか)やコレスポンダンス(=照応)がなくてはならない。そのあたりが(例えば)ブロードウェーのロック・ミュージカル(と言われた)有名な「ヘアー」や「ジーザス・クライスト・スーパースター」と「トミー」の違うところで、単に音楽としてロックを(借り物として)援用しているだけではないところに「トミー」のようなロック・オペラの真髄があると思う。*2それは単なるショーやステージである以前に、まず、一連の録音再生される楽曲(=トラック)というかたちでひとつのブレイン・オペラ(=脳髄のオペラ)として提示されるのだ。(ちょうどわたしがこうやって一連の(ある意図の下に並べられた)ただの楽曲を聴きながら(音楽にかき立てられるようにして)そこにひとつの物語の世界を耳で目にしてきているようにだ。エヘン!)




His eyes can hear
His ears can see his lips speak

目が聞こえ、耳が見え、唇がもの言うようになるのです



(ロック・オペラを聴いているとネ・・・というのは半ば冗談ですけども)、音楽を聴く人間なら、耳で見たり、耳で触れたりする、その感触をよく知っている(か、あるいは覚えがある)ことだろう。とくに演奏(とりわけ演奏者と楽器と音、あるいは歌手と声とヴォーカル)ということに注耳して音楽を聴く人には・・・・・*3



ということで、次に再び(明日、また)トミーの話を聞いてみるとしよう。


※当初は、この歌(=トミーのイベント)を12月31日にする予定だったが、どっかで計算が狂って年を越すかたちになってしまった。
みなさん、謹賀新年2006&ロール年!! ことしもよろしゅうお願いしまー。)



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【A Year Ago−Go!】

(1年前のエントリーを Playback♪)



・「オブラディ・オブラダ」 (ビートルズ

http://d.hatena.ne.jp/komasafarina/20050101

*1:ケン・ラッセルの映画では、このシンプソン氏は聖職者ということになっていて、まさか神父とシンプソンを掛けたわけではなかろうが、伝統的なイギリス国教会新興宗教めいたトミーの教団とのコントラストをうまく作り出していた。

*2:その意味でブロードウェー版の「トミー」はあくまでもこのオリジナル版を原作としたブロードウェーのミュージカルである。何しろ華麗なる群舞(!)というスペクタクルがあるんだからさ、そういものであれば、それは(まずは)目で観るべきものであるはずだ。

*3:その意味でよく言われることだが、1980年代の初めに登場したMTVやプロモーション・ヴィデオやアルバムの無意味なDVD化は、ヴィジュアル(すなわち視覚イメージ)による楽曲の阻害ばかりか、音楽を聴くというよいリスナーの耳の開発と育成を大きく妨げていることが言えるかもしれないが、そこはディジタル方式とハイテクノロジーによる格段にいい音が安価で提供されるようになったという(これまた1980年代以降の)一連の技術革新を挙げられるかもしれない。必ずしも高価な音響再生装置や高い聴力(やマリュワナなどのドラッグ類も)なしに)誰もが比較的容易くあらゆる音を(単なる聴覚のみとしてでなく)(ある種)身体感覚として(「いま/ここ」にある音として)聴くということをわたしたちはできるようになったのだ。そして、音楽のこの身体性こそが(そもそもが)ダンス・ミュージックであったロックの原点のロックンロールの真髄と言えるものだろう。ヴォーカルにせよ、ギターにせよ、ベースにせよ、ピアノにせよ、ドラムスにせよ、サックスにせよ、何にせよ、楽器を身体的に演奏する、これがロックの大っぴらな秘伝である。ボー・ディドリーを聴け、リトル・リチャードを聴け、ジェームズ・ブラウンを聴け、ジミ・ヘンドリックスを聴け、キース・リチャードを聴け、おっとピート・タウンゼンドも聴け、とにかくたくさん聴け・・・まったく「フィジカル・グラフィティ」などとレッドツェッペリンも(あの時期の自分たちの音楽について)うまいことを言ったものであるw。