Acid Queen

Words & Music by Pete Townshend.
(1969年発表)





(原題直訳 「アシッドの女王」)*1






From The Who album, "Tommy".
名作アルバム度 ☆☆☆☆


「トミー」 (フー)





歌詞は、次のURLから
http://www.lyricsondemand.com/w/thewholyrics/acidqueenlyrics.html



名曲度 ☆☆





邦題 「アシッド・クイーン」 (フー)









Gypsy:
ジプシー:



If your child ain't all he should be now
あんたがたの子供がいまだにきちんと育ってないなら
This girl will put him right.
このあたしがその子をまともにしてやるよ
I'll show him what he could be now
どうなれるものか、その子にやって見せて教えてやるよ
Just give me one night.
あたしに一晩、預けてごらん
I'm the Gypsy - the acid queen.
あたしはジプシーさ、アシッドの女王だ
Pay before we start.
お代は先払い
あたしたちがおっぱじめるまえに払っとくれ
I'm the Gypsy - I'm guaranteed.
あたしはジプシー、折り紙つきだよ
I'll tear your soul apart.
あんたの魂をあたしがこなごなにしてあげよう




Give us a room and close the door
一部屋用意して、ドアを閉めとくれ
Leave us for a while.
しばらくの間、あたしたちだけにしておくれ
Your boy won't be a boy no more
あんたの坊やは、もはや坊やじゃなくなるのさ
Young, but not a child.
年若くても、子供じゃなくなる
I'm the Gypsy - the acid queen.
あたしはジプシー、アシッドの女王さ
Pay before we start.
お代は、はじめるまえに先払いだよ
I'm the Gypsy - I'm guaranteed.
あたしはジプシー、折り紙つきさ
I'll tear your soul apart.
あんたの魂をあたしがこなごなにしてあげよう




Gather your wits and hold on fast,
気持ちを集中して*2
しっかりつかまってるんだよ
Your mind must learn to roam.
自分の心が宙を漂い遊んでいくことを覚えるんだ
Just as the Gypsy Queen must do
そう
ジプシーの女王ってのは決まってそうするものなのさ
You're gonna hit the road.
おまえはこれから旅立っていくのさ




My work is done now look at him
あたしの仕事はこれで終しまい
さあ、この子を見てごらん
He's never been more alive.
この子が
こんなに生きいきとしていたことはないだろう
His head it shakes his fingers clutch.
頭を揺すって、手を握りしめてる
Watch his body writhe
見てごらん、この子のからだが身悶えしてるよ
I'm the Gypsy - the acid queen.
あたしはジプシー、アシッドの女王さ
Pay before we start.
お代は、はじめるまえに先払いだよ
I'm the Gypsy - I'm guaranteed.
あたしはジプシー、折り紙つきさ
To break your little heart.
あんたのちっぽけなハートを引き裂いてやるよ




If your child ain't all he should be now
あんたがたの子供がいまだにきちんと育ってないなら
This girl will put him right.
このあたしがその子をまともにしてやるよ
I'll show him what he could be now
どうなれるものかを、その子に教えてやるのさ
Just give me one night.
そう、あたしに一晩、預けてごらん
I'm the Gypsy - the acid queen.
あたしはジプシー、アシッドの女王さ
Pay before we start.
お代は、はじめるまえに先払いだよ
I'm the Gypsy - I'm guaranteed.
あたしはジプシー、折り紙つきだよ
I'll tear your soul apart.
あんたの魂をあたしがこなごなにしてやるよ







Translated into Japanese tonight by komasafarina.訳詞







∮∮∮∮∮∮∮∮∮∮∮∮∮∮∮∮∮∮∮∮∮∮∮∮∮∮∮∮∮∮





これも先の行商人(ホーカー)の「光を与えて」と同様に、
トミーの両親(たぶん父親)がどこかで町の噂やら評判を聞きつけて(藁をもつかむ気持ちで)息子を連れて訪れてみたのだろう。
いわば、どこかの怪しげな一種のセラピストのところに連れていくようなものだろう。
歌を聴く限りでは、この(セラピスト(?))「アシッドの女王」は(どうも)(不思議な力を持った)娼婦(のニックネーム)であるようだが、ことによると彼女こそが(先の行商人が(あたかも自分の女であるように)語っていた)「目が見えない者にも視界が開け」「耳が聞こえない者も聞こえるようになる」というキョーレツな性技を持ったその噂の女その人なのかもしれない。

この「アシッドの女王」の「アシッド」が何なのかについては、(註1でも述べたとおり)時代設定が第一次世界大戦後の世界となっていることから、幻覚剤の「LSD」を使ったサービスをする娼婦とするのは(筋としては)無理があるだろう。しかし、(それが何であれ)この「女王」の威力は(たしかに)LSDなみに超強力なものなのだろう。
先の「いとこのケヴィン」のサディスティックな暴力とは対照的な(もしくは似て非なる)「アシッドの女王」の性の働きかけはトミーに何らかの効き目をもたらしたのだろうか?




I'm the Gypsy - I'm guaranteed.
To break your little heart.

あたしはジプシー、折り紙つきさ
あんたのちっぽけなハートを引き裂いてやるよ



日本でも1980年代にけっこう話題になったようだが、(「イッツ・ア・ビューティフル・デー」の略だという)「IBD」だとか「グループ・ダイナミクス」といったいわゆる「自己啓発セミナー」のプログラムのルーツのひとつとなっているゲシュタルト・セラピーのグループ・セッションも、この(「トミー」が発表されるその数年まえあたりの)時期からアメリカで盛んになり、各種のヨガやメディテーションとともにドラッグ・カルチャーの周囲にそれを包み込むようにして広まっていった。(1970年代にアメリカでTVや書籍や雑誌などを通じて一般社会にまで広がりを見せた)いわゆる「ヒューマン・ポンテンシャル・ムーヴメント」というやつだ。*3
そして、そうしたグループ・セラピーと呼ぶべきセッションでは、まず、最初に「あんたのちっぽけなハート」を引き裂き、「あんたの魂をこなごなに」する、そのための入念な準備プロセスからコース・プログラムは開始される。そして、その破壊のプロセスにおいて、なぜ、そういうものができてしまったかを個々人がそれぞれ新たに見い出すべく仕向けられながら新たな自己(と人間としての思い描くもの)の再生へとつなぐ魂の破壊と再生の(たいへんよくできた)プログラムになっていると(実に粗雑に)説明してもとくに咎められることはないだろう。
LSDの場合も、また、同様にまず何よりも強烈なのが(その「あんたのそのちっぽけなハートを引き裂いてやるよ」な凄まじい効果で)、それは化学物質が直接、摂取者の神経機能に作用することで、知覚がことごとく変わってしまう。すなわち視聴覚はもちろん、触覚も味覚も嗅覚も五感が通常とはまったく変わってしまうことで(当然、それらの知覚作用を前提とした第六感にも大いにターボがかかってしまうのだが)、総合的な身体感覚、すなわち空間や時間に対する直接的な感覚もまた(日常とは)大いに違ったまったく未知なる別個のものとなってしまう。すなわち「世界」がまったく見たこともないものに変わってしまう。そしてその世界もまた(ひとつの相のもとにとどまることなく)どんどんと変わっていく。言い換えるなら、わたしたちの「ちっぽけなハート」が通常目にし耳にし(感覚器官を通じて経験的に馴れ親しんでき)ている「世界」だけが世界ではないことを全身全霊で圧倒されるようにひとつの激越な体験として思い知ることになる。(問題は、それが(トミー同様)ひたすら受動的であること、さながら暴れ馬に乗っているのと同じようにコントロール不能であること、そのためにクスリの効果が切れても、そのまま精神に異常をきたしたまま「ノー・リターン」(やノータリン)な人になってしまう人も数知れない。LSDにガイドの必要が言われるのはそのためだが、過激派にとっては、「癒し」もまたけっして生易しいものではないのである(笑い)しかし、いい指導者(と、そして、いい環境に)恵まれれば訓練を積むことでメディテーションでそのぐらい(いや、それ以上にのトリップが)日常茶飯のこととして体験できるようにもなるはずだ。いずれにせよ、そうした強烈な体験は(同時に)智恵や(生命や身体や精神や物質や宇宙に対する覚醒と)理解を深めもするので、アメリカで仏教や量子力学などの現代物理学や神秘思想や各地の古来の伝統的な智恵や技術に対する見直しなどについての興味や関心が深まり、そこから(いわゆる)「ニューエイジ」と総称されるようないろんな思潮(というほどのものではないが)やプラクティカルな技法やアティチュードが生まれてくることになる。


ということで、



I'm the Gypsy - the acid queen.
Pay before we start.

あたしはジプシー、アシッドの女王さ
お代は、はじめるまえに先払いだよ




とここに「アシッドの女王」という異名をとるジプシー女を登場させてきていることは、(話が少々余談めくが)、作者のピート・タウンジェンドの実にクレバーなところだろう。つまり、この「アシッドの女王」が(彼女が自称するとおり)本物のジプシーであるかどうかには関係なく、わたしたちの(「オペラ」というものに対する)一般通念に照らし合わせてみるとき、この「ジプシー」の登場によって物語は大いに「オペラ」らしい興趣と装いを醸し出すという効果をもたらしているのではないだろうか。*4

*1:この物語の時代設定が第1次世界大戦後ということを考えると、この「アシッド」をリゼグル酸ジェルチアミド25の「酸」、すなわち幻覚剤のLSDの通称とすることは(やはり)不自然であり、無理があるだろう。ということで、この「アシッド」を「不機嫌な」とか「とげとげしい」とか「辛辣な」としておくのが適切であるだろう。だが、このアシッドの女王のその不思議な力の効果は(おそらくは)LSDなみの強力で激しいものであるに違いなかろう。

*2:と(とりあえず)訳してみたが、あくまでも「ウィット」という語が使われている以上、(この「気持ちの集中」は)いろんなことに気づく力という意味での理知や(咄嗟にその気づきに反応できる)機転であることは言うまでもないだろう。

*3:いまではごくあたりまえのスポーツのイメージ・トレーニングなどもそういう流れの中から生まれてきたもので、「インナー・テニス」などのベストセラー本もそのひとつに数えられる。そのへんについてはカリフォルニアのビッグサーにある「EsalenInstitute」(エサレン研究所)のURLを紹介しておくので(英語ですが)詳しくはそちらへどうぞ。あなたの人生が変わるかもしれませんなあ。  http://www.esalen.org/

*4:早い話がジプシーなんかが出て来ると、いかにもオペラっぽい感じがしませんか、というつまらん話をしとるわけです、へい、すんまへんでしゅーしゅく・・・・